「悪魔」くん
1994年4月 第6号

近ごろ世間の話題となった事柄のひとつに「悪魔」くんの命名問題がある。

東京都昭島市に住む若い父親が自分の子供に「悪魔」と命名しようとして戸籍の届出をしたが、

社会通念上疑問があるとして市役所がこれを拒否した事件である。


その後の展開は御承知の通りで、父親側は家庭裁判所に不服申立をし、

これに対し、裁判所は「悪魔」という名前は子供が将来いじめに遭うなどのおそれがあり、

命名権の濫用にあたるので、市は届出の受理を拒否すべきであったと認定した。

しかし、同時に裁判所は、市は届出を一旦受理しており、

名前を抹消するには戸籍の訂正という法律に定められた手続が必要だが、

市はこの手続を経ないで記載を抹消しているから違法だと判断した。

この審判により市は「悪魔」という名前を記載しなければならなくなった。

これに対し、市側は東京高裁に即時抗告をしたので高裁の判断が注目されたが、

その後父親側が改名を決め不服申立を取下げたため「悪魔」くん論争については一応の決着をみた。


この件はマスコミでも大きく取り上げられ、多様な意見が出された。

父親側を擁護する者は、名前を他人に覚えてもらいやすい利点があるとか、

名前に負けない人間になってもらいたいという親の愛情のあらわれであるとの理解を示す者もいた。

公権力の介入という観点から市側の対応に反対する者もいた。


他方、市側を擁護する者は、将来子供がいじめに遭うおそれがあるとか、

子供が大きくなって自分の名前の意味を知った時、

傷つくではないかという子供の立場からの視点が多かったように思われる。


名前というものは、その人の人格と切り離すことの出来ない重要なものであり、

命名については最終的に親の良識にまかせるべき事柄だと思われる。

確かに子供が成長して自分の名前を知った時にショックを受けるという名前はあると思われる。

しかし、他方、国や市が命名にいちいち介入してきて出生届を不受理にしてしまうと、

人格と強く結びついた名前にまで公の権力が介入することになる。

これも不当であろう。


今回は「悪魔」という名前だったため、市側の対応に賛成する人も多数いたが、

これが「魔法」という名前や「悪太郎」という名前だった場合どうだろうか。

これなら認めてよいという人も増えるのではなかろうか。

このように名前というものは無限に考えられるものだから、

国や市のチェックを強めるあり方は妥当でないと思われる。



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